外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第10回 データ重視の店頭マーケティングに学ぶ
- 2010年1月 8日 11:46
執筆 経営評論家・藤原大輝
■第10回
データ重視の店頭マーケティングに学ぶ
日本の小売業は世界でも最も激烈な競争を繰り広げている。世界を席捲した外資系の小売業の巨人たちも、日本では歯が立たずに結局撤退していくケースが後をたたない。こうした厳しい市場で鍛えられているから、我国の店頭小売業の先進企業には、来店客に買わせるためのテクニックやノウハウが蓄積している。それらは、単なる思いつきを集めたものではなく、詳細なデータ分析によって数量的に証明されたものなので、実効性が高い。「購買の決定プロセス」を解明することは、外食業にもすぐに応用できる手法だ。
競争の激しい業種ほど、勝ち抜くためのノウハウが蓄積されている。過去のノウハウだけでなく、常に新しいものへと更新されている。
外食業も、近年の競争激化に伴っていろいろな販促手法が採り入れられている。しかし、店頭小売業のように、データ収集→分析→仮説構築→実験による検証→ノウハウ化→実効性の常時検証、といった科学的サイクルになっていることは、未だ稀だ。
データ収集の技法にも各種あるが、今回は、消費者の実際の行動を逐一記録していく「買いもの行動レポート」を紹介する。
これはマーケティング調査のドゥ・ハウスという会社が行っている手法で、それによって採集されたデータは、消費財の大手メーカーや巨大流通業で広く利用されている。
ひとつの例を引こう。収集されたデータ原票には次のように記載がある。
「35歳の主婦。夫(35歳)、長女(10歳)、次女(6歳)」と家族構成も明示される。場所は「サティ新百合ヶ丘店」と明らかにされている。
日付は「6月24日(金曜日)、入店時刻17時10分、退店時刻18時15分」と記録されている。「同伴者は次女」で、「来店手段は車」となっている。
そして、ここからが興味深いところ。
この店内の図面が表示され、どの棚のところをどのように歩いて行ったか、どこで何秒間立ち止まったか、立ち止まったところでは、何をどう考えて、どの商品を見て、あるいは手にとって、結局それを買ったのか、買うのをやめたのか、はたまた、一度買い物かごに入れたけれども思い直して棚に戻したのか、それは何故か、というようなストーリーまで全部記録されている。(喜山荘一&ドゥ・ハウス『買う気にさせる3秒ルール』〔中経出版、2006年、1300円〕より)
このような詳細なレポートを送ってくるのは、同社が委託している消費者パネルであり、選考にパスしたうえ、本社で詳細な研修を受けてトレーニングを積んだ560名の主婦によって構成されている。
これだけの人数が生々しいデータを毎日収集しているから、どのような商品が、どのような動機で買われているか、また、どのような商品は検討の対象にはなっても結局買われないのか、それは何故か、といった従来のマーケティング調査では解明できなかった「消費者の意思決定のプロセス」に踏み込んだデータ解析が可能となった。
消費者パネル調査は他にも数多くあるが、ドゥ・ハウスが異彩を放っているのは「定性的コメント」を重視していることだ。
これまでは、選択肢方式の質問票からデータを多数収集して、なんでもかんでも統計数値に置き換えてから、その意味するところを解読していくというのが、数量的消費者調査と言われてきた。無論、それで大きな成果を挙げてきたことも否定できない事実だ。
しかし、「非常にそう思う/ややそう思う/どちらともいえない/あまりそう思わない/そう思わない」などという○×式の"評価"を消費者に聞いたところで、新たな発見は殆どないと言ってよい。
それは、選択肢方式では、聞き手の予測を超えた視点を取り込む口がないからだ。質問票を設計する時点で、既に結果の宇宙は限られてしまっている。売り手がまったく予想もしていなかった概念で消費者が行動していることを他に先んじて発見してこそ、ヒット商品が誕生する。それには、買い手の正直な想い(あるいは、野村監督のような「ぼやき」でもよい)をいかに聞き出すか、それをどう定量的にどう加工するかがポイントとなる。
買い手の動機を詳しく調べるというと、「そんなの当たり前だ」と思われる方も多いだろう。しかし、「では、買い手の動機って、どれくらいの期間(時間)続きますか?」という質問に答えられるだろうか?
つまり、何かを買おうと思っている「潜在的買い手」は、1件の買い物の意思決定を下すのに、どれくらいの時間をかけているか?ということだ。
スーパーなどの店頭で消費者が何を買うかを決めるのに要する時間を計測したところ、平均3秒だったというのが、同社の調査結果だ。対象商品が違えば、当然この意思決定時間=動機持続時間も異なる。家電なら「1ヶ月動機」、車だったら「3ヶ月動機」、住宅なら「3年動機」という具合だ。(喜山、前掲書)
このように計測された、「店頭における3秒動機」を重視して店頭のマーケティングを工夫しているのが、GMSなどのスーパーや、そこが主戦場の加工食品メーカーなのである。
上述の多数の消費者パネルの定性コメントから抽出された「3秒動機」には、ある特定の1アイテムが、どのような最終的な心理で多数の競合商品の中から選ばれたのかが明らかにされている。これがあらゆるカテゴリーの商品についてデータが蓄積されている。
具体例を示すと、たとえば、清涼飲料水の購買動機は、「○○そう」というイメージになるという。以下、同書から引用する。
清涼飲料水の購買動機をめぐって頻繁に出てくるのは、見かけを判断した「そう」という言葉です。「おいしそう」「面白そう」「体にもよさそう」「飲み切れそう」「話題にはよさそう」「さっぱりした気分になりそう」と、「そう」のオンパレードなのです。そんな気分的な判断から、清涼飲料水は買ったり飲んだりされています。
ここから、買わせる側としては、「お客の今の気分をよくしてあげる」という作戦が導かれる。つまり、「体によさそう」と思ったからといって、本当に体に良いかどうかは確かめようがないのだが、お客が求めているのは、本当はどうかということよりも、買う時点と飲む時点で、「どういう気分になりたいか」ということだ。清涼飲料は元来、健康に良くないイメージがある。そこで、どうしても飲みたい自分としては、少しでも体によさそうだという「気分になりたい」という心理が根底にあるということだ。そこを上手く衝けば、購買の決定に持ち込むことが可能になる。
これで現在の缶チューハイの外観がカラフルだったり、とっかえひっかえ新フレーバーが出たり、カロリー表示が目立ったり、と、およそ従来の「お酒」のイメージとかけ離れている現状がわかるだろう。大手酎ハイメーカーも、「女性の購買動機」を全面的に意識して商品開発しているのだ。
「これはスーパーで買い物をする主婦の動機であって、飲食業には関係ない」と高をくくってはいけない。いまや、外食をリードするのは女性。女性グループだけでなく、カップルで来店しても、店を決めるのも、メニューから注文を選ぶのも女性が仕切っている。飲食店のメニューの内容やネーミング、店内POPなどにも活用できるヒントは多い。店頭小売業の繁盛店を訪れたら、この「○○そう」の視点から売り場を観察してみてはどうだろうか?
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