外食業にも役立つ【よその産業】の知恵 第6回 ヨーカドーに学ぶ競争の本質
- 2009年11月10日 09:14
執筆 経営評論家・藤原大輝
■第6回 ヨーカドーに学ぶ競争の本質
ヨーカドーやセブンイレブンの各種ノウハウについては、書店に行くと解説書が山積みにされていて、もはや語り尽された感がある。しかし、それらノウハウの背後にある「ものごとの本質を理解するセンス」にまで踏み込んだ紹介記事は少ない。そこで、今回は業種を問わず経営者にとって、自分の経営を見つめなおす視点を鈴木敏文氏本人の著作からいくつか紹介する。我々がふだん何気なく当たり前と思っていることが真っ向から否定されたりして、目を醒ましてくれる新鮮な"プチ衝撃"の連続だ。
イトー・ヨーカドーといえば、「業務改善」が有名だ。セブン・イレブンのPOSデータに基づく「仮説と検証」も、いまや流通業界では当たり前に行われている。そのような現場ですぐに使える手法については既に語り尽されているが、それらノウハウの背後にある「ものごとの本質を理解するセンス」にまで踏み込んだ記事は少ない。そこで、今回は業種を問わず経営者にとって、自分の経営を見つめなおす視点を鈴木敏文氏の著作からいくつか紹介する。
鈴木敏文氏といえば、イトー・ヨーカドー・グループ、現名称をセブン・アイ・ホールディングスの会長として、日本初のコンビニエンス・ストア「セブン・イレブン」や日本初の無店舗銀行「セブン銀行」を立ち上げるなど数々のイノベーションを実現させてきた人物だが、あらゆることが思い付きではなく、周到に練られた論理に基づいている。
表面的なノウハウではなく、その根底にある事業の本質を理解するセンスについて鈴木氏が語り尽したのが『朝令暮改の発想――仕事の壁を突破する95の直言』(新潮社、2008年、1470円)だ。収録されている95項目のアドバイスは、組織をマネージする者にとって箴言の連続だが、その中で逆説的な響きの中に物事の本質を捉えているいくつかを紹介する。
"競合他社と競争するな"
我々は、毎日毎日厳しい競争を戦っている。
戦う相手は、当然だが、競争相手である。同じ産業(市場)で、同じお客(ターゲット)を取り合っている相手を打ち負かそうとして日々へとへとになっている。
それがダメだというのだ。
競争相手と比較して、優れているとか、勝ったとか、そんなことは意味がないという。なぜならそれは、相対的な価値でしかないからだ。同業者同士が、優劣を競っているだけだ。
供給者同士が優劣を争ってこっちが上だとか、下だとか、そういうことは、お客にとっては何の価値ももたらさない。そのような相対的な優劣を決めるのはお客であって、売り手ではないからだ。
売り手は、自社がお客に対して提供したいと考える価値をとことん追求するのが本来の仕事である。自社が目指す理想の姿、すなわち「絶対的価値」を実現できたかどうか、それこそがなすべきことである。
相対的な競争ではなく、理想との戦い、自己との戦いという絶対的価値を追い求めることが本当の競争なのだと鈴木氏は言う。
奥が深い。なかなかここまで思い至らないのが我々凡人だ。
"経験豊富な店長よりも、アルバイトの意見を尊重せよ"
経験とは恐ろしいものだ。知らず知らずのうちに、経験が自己の中で勝手に判断基準を固めていくからだ。
長年同じ仕事をしてきたベテランには、判断のための経験量が蓄積されていくのであるから、一見、より適切な判断ができるようになると思うのが普通だ。
ところが、流通や外食など環境変化の激しい産業では、"長年の経験"が仇となって、目の前に起こっている変化に盲目となる危険がある。
だから、セブン・イレブンでは、なんと入ったばかりのパートや学生アルバイトに日々の発注という最も重要な業務を任せるのだそうだ。
それは、マンネリ打破のためだ。経験豊富なオーナーやベテラン店長は、何百回もやっているうちに、知らず知らずに機械的、マンネリに陥る。本部のスーパーバイザーがデータに基づいて示唆をしても、「うちの店ではこれは売れないよ」と勝手に決め付ける例が枚挙に暇がないそうだ。(そうして欠品を起こして機会損失を出してしまう)
そこで、発注業務をド素人に敢えてやらせることをマニュアル化しているというから、逆転の発想もここまで徹底しているかと感心せざるを得ない。
いちばん危ないのは、「自分はこの道の玄人、お客は素人」と思い始めることだそうだ。誰しも思い当る節があるのではないだろうか。
"仕事が増えたら、人を増やすな"
「うちの店(部署)は仕事が多いのに、人が足りません。増やしてください」という要望は、日本中のあらゆる業種で毎日のように出ているだろう。さしずめ、現場から本部への"人気ナンバー・ワンの要望"といえるだろう。
しかし、仕事が多いのは、仕事のやり方が見直されていないことが大半だ。昔のままのやり方で仕事をしているところへ、要望どおり人を追加したら、無駄がそのまま温存され、人が増えた分だけコミュニケーションが複雑化し、生産性を下げるだろう。
中には、人が増えたからといって新たな作業を作るケースも多い。
仕事量が本当に多いと感じたときには、仕事のやり方を根本から変えてみることが不可欠だと説く。
しかし、日本中で「仕事が多いのは人が足りないからだ」と愚痴っている中間管理職が五万といる。彼らに鈴木氏は強烈なメッセージを送る。
"(こういう人は、)一生忙しいまま仕事をすることになるでしょう。"
以上、3つの直言だけを紹介したが、それ以外にも"お客の立場で考えるな"など、刺激的な逆説が多く収録されている。一見すると、常識とは相容れないメッセージなのだが、読み進むうちに「そうだったのか」とうならせる。自分のこれまでの洞察や現場での格闘が浅く、甘いものだったことを思い知らされる、煙たい本である。
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